小説ハーモニーを読んだ人と感想をシェアしたい

HTMLタグが使われた小説なんて初めて読みました。

先日より、マイクロソフト日本法人元社長の成毛眞さんが書籍の中でおすすめされていたSF小説を読んでみようという試みをやっています。

今回は、伊藤計劃(いとうけいかく)さんの<harmony/>(ハーモニー)です。あらすじや感想をまとめてみました。同じようにハーモニーを読んだ方と感想をシェアできたら嬉しいです。

HTMLで感情を表現

まず驚いたのは記述方法。のっけからHTMLで書かれているという奇抜さです。

ところどころで、登場人物たちの感情がHTMLで表現されます。例えばこんな風に。

<anger>

駄目なんだよ、お母さん。

</anger>

最初は違和感しかないと思った文章でしたが、読み進めるうちにその必然性がわかっていきます。最後まで読んだ後は、これはHTMLによる記述でなければならなかったのだと腑に落ちました。

この点についてあとがきのインタビュー中に作者は、物語は主人公である霧慧(きりえ)トァンの1人称で進めているが、どうしても1人称だと感情の表現が難しい。そこでHTMLでの記述を思いついた、と語っていました。

ハーモニーを奏でることはできるのか

物語の舞台は、破壊的な核戦争時代を乗り越えた末の世界です。そこでは、資本主義から生命主義へと変貌し、人類は科学技術によりあらゆる病気を克服し、これまでにないほどの平和を手にしていました。そこに生きる人々は頭痛や切り傷などの外傷、風邪などとは全く無縁の生活を送り、後は老いと寿命いう二つの課題だけを残すのみとなっていました。そしてその課題さえもいずれは克服するだろうという設定です。

さて、そんなユートピアを思わせる世界では何が起きたのでしょうか。ここから思考実験が始まります。

物語のコマを進める役割を担う御冷(みひえ)ミァハは、自らの置かれた立場を憂いていました。ミァハにとって自分の身体は自分だけのものであり、それをどうしようとも自分の自由であるはずなのに、今の世の中はミァハを含む人類の身体を社会的リソースとして丁重に扱うことを望んでいました。自殺するなんてとんでもない愚行であるという常識や空気が蔓延する中で、ミァハはそんな世界からの押し付けに辟易して自傷行為に及んでいました。

そしてそれは世界各国でも同じことが起こり、子供の自殺者数は年々増加していたのです。

なぜそんなことが起こるのか?

一見すると、この世界は理想を形にしたユートピアです。病気やケガと無縁で、健康で、寿命は伸び、老衰で生をまっとうするまで終生穏やかに暮らせます。各々が協力し、支え合い、お互いの命を尊重するという調和(ハーモニー)のとれた世界。

しかし実際には、そんな世界でも自ら命を断つ人がいました。その理由を、物語の中で御冷ミァハはこう語っています。

人は野蛮さと自然さを捨てきれない。それなのに、社会はそれを押えこもうとする。だから、そんな世界からは逃げたいと思うのだと。

結局、その野蛮さや自然さを生み出す「意識」を取り除くことでミァハは世界にハーモニクス(調和)をもたらそうとします。最終的には本人の願いは叶うものの、ミァハ自身は命を落とすことになります。

進む人造人間化

現実的に考えても科学の進歩は同じ道を辿っているような気がしてなりません。今はまだ倫理観という高い壁が存在しますが、おそらく人類はこのまま行けば、同じような未来を迎えるはずです。

病気を駆逐し、老化を遅らせ、寿命を伸ばす。生物科学やロボティクスの躍進、薬の調合開発などあらゆるテクノロジーを総動員して、人類はずっと夢見ていた不死に近づこうと邁進しています。

かつての人類が木々をなぎ倒し土地を平らにし、自分の都合よく自然を書き換えることで住み心地の良い都会を作り上げてきたのだとしたら、そしてそれが善なのだと世界が認めるなら、己の身体こそ改造して然るべきだという論調になりかねません。

現に今、アメリカでは人造人間を推進する人々も活発に啓蒙しています。コンタクトレンズを私たちがすんなりと受け入れたように、個人情報を記録したマイクロチップを手の甲に挿入することだって訳もないかもしれません。

感情は単なるアルゴリズムに過ぎない。としたら…

そして作中でも語られているように、人類がヒトの「意識」の領域に手をだす日もそう遠くないのかもしれません。

脳に作用するホルモンを自由自在に扱えるとしたら、気持ちよくなりたいときはドーパミンを、眠りたいときはエンドルフィンを、人の温もりを感じたいときはセロトニンを、それぞれ摂取してください、という生活様式になる…。このように書くと、本当に?と思いたくなりますが。

意識は、生存戦略の上で必要なアルゴリズムに過ぎず、未来の人類にとって足かせにしかならないのだとしたら、人類から意識を切り離すべきという動きが出てきてもおかしくありません。

SF小説を読むことの意義

ここまで私たちの未来がどうなるのかについて、タラレバを語ってみましたが、こんなことを言って何になるのかと思っている方もおられるかもしれません。

しかし、SF小説を読むことの意義は、もしかしたら訪れるかもしれない未来を思い描いて、人類が本当に進みたい道はどこにあるのかを議論することにある、と台湾の敏腕プログラマーであるオードリー・タンは言いました。

ハーモニーでは、人類は健やかな平和を求めた結果、人類すべての意識をなくすという結論に至りました。その世界は表面的にはこれまでと変わりありません。意識がないのでヒトは不合理な決断を下すことなく、すべて自明で行動します。人々は談笑し、笑い、泣きます。ただ、その行動や表情に至るまでの意識が欠落しているだけです。

こんな合理的な選択をする人類のみで作られた世界を、あなたはどう感じますか?

それでは今回も最後までご覧いただきありがとうございました。この記事で、皆様と感想をシェアできたら嬉しいです。

参考書籍