「折りたたみ北京」は何がそんなに面白いのか? 要約&感想

「折りたたみ北京」は、ケン・リュウという有名な作家が編集した中国 SF アンソロジーです。この中には13の短編が入っており、その中の一つである「折りたたみ北京」(ハオ・ジンファン著)のタイトルが本の題名となっています。

この折りたたみ北京、少し検索すると多くの人が「面白い」と書評をあげています。なぜこのように評価されているのか、そのじつ何がそんなに面白いのか?今回はこの点について読書感想文として書き綴ってみます。

ネタバレあるので、OKな方のみお進みください。

折りたたみ北京とは

折りたたみ北京は冒頭で紹介したように、中国SFのアンソロジーです。 7名の作家による13の作品が編集されています。

作品を厳選、編集したのはケン・リュウという著名な作家。ケン・リュウは中国で生まれましたが、子供の時にアメリカに移住しており、英語で小説を書いて次々とヒットを飛ばし賞を総なめにしました。

また中国語で書かれた中国 SF を英語に翻訳して、 中国 SF の良さを世界中に広めた人でもあります。

折りたたみ北京はケン・リュウが英語で訳し編集したものを、さらに日本人が日本語で訳したものです。原文をそのまま訳したものではないのですが、 簡潔な言い回しになっており非常に読みやすかったです。

「折りたたみ北京」の登場人物とあらすじ

今回はアンソロジーの中で本のタイトルとしても使われた「折りたたみ北京」についての感想を書いていきたいと思います。

まず設定と登場人物について整理しておきましょう。

設定

折りたたみ式の街は3つのスペースに分かれており、2日を3つのパートで順繰り回している。

片面は第1スペース、裏面は第2スペースと第3スペースです。

第1スペース

人口500万人、午前6時から翌朝6時までの24時間

第2スペース

人口は2500万人、2日目の午前6時から午後10時まで

第3スペース

人口5000万人、2日目の午後10時から午前6時まで

つまり、500万人が24時間を、残りの7500万人が次の24時間を割り当てられていることになります。7500万人のうち2500万人は2日目の朝から夜で、5000万人は2日目の深夜帯で暮らしています。

登場人物

ラオ・ダオ…物語の主人公。第3スペースの住人。 拾った幼い女の子を養っている。幼稚園に通わせるためにお金が必要。

チン・ティエン…第2スペースの住人。大学院生。インターンシップで第1スペースの住人であるイー・イエンに出会い恋に落ちる。

イー・イエン…第1スペースの住人。チン・ティエンとの出会いで恋に落ちるも彼には言えない事情をもつ。

ラオ・グー…第3スペース出身でありながら陸軍に入隊後出世し、現在は第1スペースで暮らす。第3スペースに年老いた両親を持つ。第1スペースに迷い込んだラオ・ダオを助ける。

折りたたみ北京の物語を要約します

第3スペースに住みゴミ処理施設で働くラオ・ダオは、ある日ゴミの中に混ざった手紙を見つける。それは第2スペースに住むチン・ティエンのものだった。その手紙を頼りにチン・ティエンを訪れると、高額な報酬と引き換えに頼みごとをされる。「イー・イエンという人物に恋をした。しかし彼女は第1スペースの住人で会えない。代わりに手紙を届けて返事を聞かせてほしい」というものだった。

ラオ・ダオは了承し、危険を犯しながらも第1スペースに潜り込む。イー・イエンに事情を伝えると、チン・ティエンの望みは受け入れられないと言う。なぜなら、彼女はすでに父親ほども年の離れた男の妻だったからだ。しかし、彼にはこれを伝えないでほしいと言う。ラオ・ダオは迷いながらも了承し、嘘が書かれた返事と報酬を受け取った。

ラオ・ダオが第1スペースに帰ろうとしていると、警察に捕まってしまう。その時助けてくれたのがラオ・グーだった。彼は第3スペース出身でありながら出世して第1スペースで暮らしている。この世界の仕組みをラオ・グーはラオ・ダオに聞かせたが、ラオ・ダオはほとんど理解できなかった。これから第3スペースに帰るというラオ・ダオに、故郷に残した両親に渡してほしいと薬を持たせる。

街が交代するとき、トップ層の些細なトラブルが原因で、一時停止と再開が起き、ラオ・ダオは地面の割れ目に足をはさみ、怪我をする。それでもなんとか第2スペースに辿り着き、チン・ティエンに手紙を渡し、第3スペースに帰り、ラオ・グーの両親に薬を届ける。そして、自宅に着き、ベッドの中で目をこする幼子の将来を思い描いて物語は終わります。

それぞれのスペースの住人が抱えるやるせなさ

作品を通して終始感じていたのは人々のやるせなさでした。

第1スペース、2スペース、第3スペースそれぞれで、それぞれの暮らしを送る登場人物たちですが、みな手放しで喜べない現実がある、といった感じです。

第3スペースの住人はこの世界について多くを知ることなく自分たちの暮らしを受け入れて生きているし、第2スペースの住人も夢や希望を抱いているものの、そこには大きなガラスの天井があることを知らない。

そして第1スペースの住人はさらにトップ層の手のひらの上にいることを知りながら、それも仕方ないと受け入れている。第1スペースの住人の暮らしは非常に恵まれているように見えますが、実際にそこで暮らしている人たちが抱えているしがらみというのも相当なものであると。

どこに生まれ落ちたかで人生のほとんどは決まってしまう。結局のところは、 自分が生まれた場所で精一杯生きるしかなく、もしスペースを超えられたとしても、そこには郷里の身内との別れという現実が待っている。

この子の将来に幸せはあるのか?

物語の最後、主人公であるラオ・ダオがゴミ処理場の前で拾った女の子の将来を思い描いて終わります。

「ダンスと歌を習って優雅な若い女性になるのはどのくらい先のことだろう?」

この子を幼稚園に通わせるために、 ラオ・ダオは第2スペース、第1スペースまで危険を犯して侵入します。実際に命を落とさずに帰ってこれたのはほとんど奇跡に近いぐらいのことなんですが、そうまでして手に入れた大金でこの女の子を幼稚園に入れることができたとしても、その先に進む未来には何があるのでしょうか?

おそらくこの作品を読んだ人たちは、この子の将来が明るくないことを想像できてしまうと思います。基本的にはスペースを移動することはできないし、ほとんどの人は今の暮らしを受け入れていくしかないし、たとえスペースを移動できたとしても身内とは別々で暮らすという寂しさがあります。

どう転んでも、この幼い女の子が幸せに暮らせ道ってあるんだろうか?と思わざるを得ません。このやるせなさというのがこの作品の読後感かなと思います。

まとめ

今回初めて中国 SF というのを読んでみたんですが、非常に簡潔に物語がまとまっていて読みやすかったです。

回りくどさがないし、必要な情報が無駄なく詰め込まれているという印象でした。後は中国という世界に対する風刺や皮肉みたいなものも感じられて、短い短編ながらも読み応えがありました。

 SF という観点で見ると、未来の暮らしを思い描くという感じではないんですが、もしこの世界がこうだったらという空想を展開させるという意味では SF 好きにはたまらないかもしれないです。

気になった人はリンクを貼っておくのでぜひ読んでみてください。古い本なので図書館でも借りられると思います。

それでは今回も最後までご覧頂きありがとうございました。みなさんと「折りたたみ北京」の感想をシェアできたら嬉しいです。